街の声
2021/8/3
ー差し支えなければで結構です。お住まいはどの辺りでしょうか?
税務署通りの北側です。
ーオフィスはどちらでしょうか?
小滝橋通り沿いの雑居ビルにあります。
ーメインの業務はどういったことを?
主に違反店舗の破却です。
対策が不十分だったり、時短要請に応じない店舗には罪穢がたまりますので、それらを祓う専門業者になります。正式には「御清目係」といいます。検非違使庁から下ろされた内容を、談合入札を経て受任しています。
ー「違反店舗の破却」というのは
私が担当しているのは、主に「ホストクラブの焼き討ち」になります。接客のある飲食業界では現在、独自にガイドラインを定めています。自治体とも共有した上で運用しています。ほとんどの店舗さんは問題ないのですが、中には感染対策の有無以前に、無許可営業/不法就労/未成年客の奨励など、モラルではなく法的に問題のある店舗があります。そういった店舗に対して、ルールの準拠をお願いをしまして、それでも状況が改善されない場合は、法的根拠を以て業務を執行しています。
ー焼き討ちというのは燃やしてしまうということですか。
表向きは、消毒作業ということになっています。「燃やす」といっても本当に火炎放射器のような炎でボーボー燃やすわけではありません。定められた様式に則って、儀礼を行います。
ー「お祓い」みたいなことなのでしょうか???
この場合、たいてい運営する側も利用する客側も、分かっててやっていますから、当然「罪の意識」があります。そうすると必然的に穢れが起きますよね。1箇所に罪穢がたまり続けると、2次的な問題が発生します。それが一番マズイので、それを防ぐのが目的でもあります。いわゆる「呪霊」や「悪魔」といった類の厄の発生源になり得るということです。
ーその店舗には後日、営業停止処分の様な、行政の指示が行くわけですか
店はなくなります。というか、関係する物は全てなくなります。物理的に、その空間自体が無くなるということです。言葉で説明してもピンとこないと思いますが、その場所には何も無い。空間そのものが無くなるということになります。一般の人には知覚できないと思います。
ー特別な訓練などは行いますか
詳しくは言えませんが、そのための訓練はもちろんありますし、専用の道具も貸与されます。誰でもなれるわけではなく、適応した体質というのがあります。
ー体力的な面で?
それもありますし「祓穢」を専門としますので、聖/俗の範疇から抜け出た体質を持った人間だけが任ぜられます。
ーどういうことでしょうか??
簡単に言えば「罪人」ということになります。ですが「罪を犯した」全ての人がなる、というわけではありませんが、簡単に言うと、そういうことです。
ー差し支えなければで結構ですが・・・
大丈夫ですよ。私が罪人かどうかということですよね。ご想像の通りです。
500kg分の金塊を3.5kgまでフェイズシフトして、ペルーまで運びました。
ーこの国では重力係数の改ざんは重罪です。
おっしゃるとおりです。金塊強盗については死者が出ましたが一切不問、重力波の不正アクセスの廉で裁判もなく即極刑になりました。
ー極刑の身から「御清目係」になったのにはどういったきっかけが???
これも詳しくは話せませんが、朝目覚めるとトレーニングジムのような、真っ白な壁に一つだけ覗き窓がある部屋にいました。他にも何人かおりまして、公判中の人間だった気がします。そこから、いくつか窓越しに質問をされ、ビデオを見せられました。それがだいたい3〜4日くらい続きましたかね。ビデオ講習が終わると、今度は行動制限のための催眠のようなものを受けました。脱走してやろうとか、職員を襲ってどうこうしようという気が全く起きなくなりました。背中に焼印のような、タトゥーのような、妙な模様のシールを貼り付けられました。一生取れないそうですが。それが終わると外に出て、道具を使った訓練になります。そこで実際にオカルトめいたものと対峙して実務の一端を担うようになります。当然、初めてのことだらけですし、物理法則に反することもあります。精神を病む者もいました。私は幸い(ママ)か不幸かそういったものに耐性があったようなのですぐに順応しました。命を落とす事例もあったと聞きましたが、私が所属する班ではそういったことはなかったですね。
ー班になっているんですね。収容されている刑務所ごとに分かれているのでしょうか??
確認してないので分かりませんが、刑務所ごと、というよりは罪状で選り分けられている様な感じがしました。
ー所属されていた班には重い罪を犯した人たちが多かったということですか?
そうだと思います。
ー教官みたいな人がいて、教習を受けるようなイメージ?
そのとおりです。現役の検非違使の方なのですが、教官1人で5名の班を担当します。
ー研修が終わるとすぐ独り立ちという形になるのでしょうか?
厳密にいうと「独り立ち」ではないですが、研修時の班を検非違使庁が代行して法人登記します。班のメンバーがそのまま法人の社員になるということです。その法人に対して業務を委託していくという流れになります。社会に出されるわけですので当然行動管理・業務報告はかなり厳しいものになります。
ーこの2年で業務量は増えましたか?
さほど変わってはいません。総量は変わらないようです。偏在する場所が時代によって移るだけで総数自体はいつでも一定に保たれていると聞きました。人間が犯す罪の量は時代によって変わったりしませんからね。「どの場所で多く起きるか」の違いだけです。