昔、特殊詐欺グループの選り子(選別業務)を行っておりましたので、その実務フローをお話したいと思います。それで精神を壊す人もいましたが、幸い自分はそこまでなる前に辞めることができました。ただ、たくさんの呪詛を浴びました。所持品が故障したり、差し歯が抜けたり、逆走自転車に轢かれたり厄災が降りかかることが多かったと記憶しております。
1.広告
募集要項を、専門誌に広告します。目的は質ではなく数ですので、年齢制限は当然ありませんし、未経験でもOKです。できるだけ心踊るキャッチコピーにします。「即デビュー」や「商品化確約」系の文句です。
また、インターネットでの活動も欠かせません。時代はWEBに移行しつつあるときでしたので、MI○XIやモバ○ゲーなどで足跡施策を実施しました。クローラーと呼ばれるエージェントソフトを使うと、不特定多数にオートで足跡をつけてきてくれます。足跡からの反響があればすぐ応募フォームのリンクに飛べるようにします。こちらのプロフィールにも魅力的な文言を羅列しておきます。
2.ソート
数週間すると、事務所に大量に応募用紙が届きはじめます。俗に言う「書類選考」という段階です。いわゆる専門誌には、付録で応募用紙がついています。だいたい大手2誌くらいなんですが、そのどちらかの用紙で送られてくることが多いです。そこから書類の山を選り分けていきます。
まずは年齢・地域でざっくり分けます。「未成年・山梨県からの応募」の様な物件はお互い不幸になるので一旦「etc…」箱にいれておきます。
首都圏・未経験者でソートして、それで量が十分ならOKです。上司に報告するには少し心許ないボリュームであれば、もう少し範囲を広げますが、まずは年齢から検索範囲を広げるべきです。場所や経験の条件で妥協すると、のちのちトラブルになります。それであれば、再度募集をかけたほうが早いです。
3.架電
ここからが我ら兵隊の出番です。選り分けた書類の山を前にして、ひたすら電話番号と名前をエクセルに転記していきます。これでだいたい1日終わります。それが終わったら、今度はガムテープで手に受話器をグルグル巻きにされます。エクセルに書かれたすべての番号にモシモシします。終わるまで帰れません。
でも知らない番号からの着信なのでたいてい出ません。運良く出てくれさえすればこっちのものです。何かを売りつけたりするわけではありません。テレアポ営業とは違いますから、難易度は低いです。1stステージはこれでクリアです。
「こんにちは!”きらめけ!エキゾガ〜ルNEXT”事務局です。応募されたスズキさんですか?おめでとうございます。8千名の応募(ふんだんに盛ります)のなか、見事1次審査通過されました。つきましては、2次審査に移りたいのですが、いまちょっとお話よろしいですか?」
と「あなたは選ばれし(承認)者であり、才能(不可視)がある」ことを伝え、アポをとります。ここでまともな受け答えができる相手はほぼいません。基本的に日本語が通じなかったり、タメ口であったり、とにかく普通にアポ取りできることは稀です。家の固定電話で親が出る場合も当然ありますが、むしろラッキーと思ってください。親御さんが出られればしっかりと企画趣旨のご説明ができますし、その後の保護者確認作業もスムーズになることが多いです。
そして、対面審査を行う日付・時間のパターンを提示し、ハメこんでいきます。
モシモシが終了したら、その結果を備考欄に書き入れていきます。
「8/16 15:00頃不在 伝言残」「8/18 20:00頃不在 伝言残」 のように です。
アポ獲得すれば、いつの何時の回かを書き入れます。毎日終業後に上司から進捗確認が入ります。不在の追客は何ループしたか、アポは念押ししたか。そして日々ロールプレイをしてテレフォントークに細かいダメ出しが入ります。
4.対面審査
当然、予選通過者は面接をすることになりますが、一度にすべてのスキルチェックを終わらせることはしません。何度も通わせて認知を歪ませる事が大事です。どういうことかというと、単純接触効果みたいなものです。
「これだけ足繁く通った事務所だから、ここまできたら絶対所属したい!合格したい!」
と因果を逆転させることが重要です。基本、審査は相手の都合にあわせますから、土日に行います。朝から夜まで、1時間刻みで多いときには10マワシすることもあります。審査員役の上級スタッフはタバコ休憩が可能ですが、我ら兵隊は応募者の引率も仕事です。1グループ目の面接が終わるやいなや、急いで集合場所に行き、次の応募者グループを連れてこないといけません。名簿を見て点呼をとり、いない人には電話をして「バックレ」か「遅刻」か確認します。みすみす取りこぼす手はありません。少しくらい待たせても問題ありません。確実に1人でも多くクロージングさせなければいけません。準備としては、集合場所の張り紙、実施回別の名簿・電話番号、応募用紙のファイリング、チェックシートの作成、先輩社員に審査員役をお願いする、場所の確保、などなど・・・。この間にも架電は続けます。最後の最後まで諦めません。
5.2〜4次審査
と、ここまでのフローを3〜4回繰り返します。その都度審査内容は変えていきます。理由は先に述べた通りです。
ちなみに(私がやっていた時代なので、だいぶ古い情報になりますが)「特技:ものまね」と書いてある応募者の9割は「アシダマナダヨ」か「オラしんのすけ」になります。初めて見たかのようなリアクションが求められます。あと歌唱審査の自由曲は、たいてい特定の遠恋ソングになります。男性は中目黒系か柑橘系になります。
時間短縮のテクとしては、サビの1塊だけにしてもらう、などがあります。たいてい応募者の方は緊張していますので、トップノートのピッチが当たりません。それでも阿久悠ばりに目を閉じ難しい顔をして聞き入って、「はい。だいたいわかりました。ありがとうございます」とお礼を言うことが重要です。2次審査以降の通過率は100%ですが、4〜5割バックレて音信不通になります。鬼電をかけて追客します。上司に激詰めされます。
6.クロージング
最終審査のアポ取りをします。最後は場所を変えます。アポまでとってリストを完成させたら、兵隊の役目は終了です。あとはトレーナーが特殊話術を用いて「特待生」「入会金無料」「研修生」などと、時にはスピリチュアリズムも交えながら口八丁手八丁でクロー(文章はここで途切れている)